「社会における薬剤師の役割を考える」

川島淳子さん(1期生):調剤薬局薬剤師 大学院健康マネジメント研究科博士課程

社会における薬剤師の役割を考える ―健マネでの人との出会いと研究活動  

 

健康マネジメント研究科(以下、健マネ)に入学しようと思ったきっかけは?

大学卒業後、製薬会社の研究所にて薬が世の中に出る前の業務に携わり、調剤薬局ではその薬を患者さんのもとへ提供する業務となりました。曲がりなりにも、その両者の業務がわかる者として、医薬品が人々の健康に貢献するためには薬剤師の使命は重要であると日々痛感していました。また、薬剤師を取り巻く環境も変わってきています。制度が変遷し、医療が高度化、複雑化し、社会が多様化している、その中で、薬剤師が担える役割について考え直したいと思うようになりました。そのため、学業・研究だけではなく、人とのコミュニケーションが必要であると感じ、見識を広めようと健マネに入学しようと考えました。医療や生命科学の世界においてだけではなく、社会の中での薬剤師の位置づけを見つめなおしてみたいと思ったのです。  

 

実際に修士課程に入学してみてどうでしたか?

医療マネジメント専修の同期には17名の学生がおり、医療専門職、施設経営者や企業勤務経験者などバックグラウンドも多種多様。年代も新卒の20代前半から60歳代までジャンルを超えて幅広い視野から「健康」をテーマに議論をすることができました。この2年間、経験や考えの全く異なる方たちと接することによって、人の話に耳を傾けることの訓練ができたと思っています。 また、大学院の外においては、同じ薬剤師の間でのネットワークも飛躍的に広がりました。薬剤師会や大学等の研究分野で、さまざまな働き方をしている薬剤師がいらして、そういった方々の考えを知ることができたのです。そのつながりから社会薬学の先生方と出会い、研究発表を行うという機会にも恵まれました。 地域を越えて繋がっていることもわかりました。それだけ狭い世界なのは確かですが・・・。例えば、各県の薬剤師会を越えて連絡を取り、研究にご協力くださいました。健マネのインターンシップで明治製菓(株)に行った際もいろいろと繋がっており共に頑張ろうと言ってくれる・・・etc。そのネットワークの拡がりができたのは健マネのおかげです。 今から振り返ると、修士課程の1年でネットワークを作り、それを基盤に研究に結び付けていくことができたといえます。つまり、「人と人の出逢い、繋がり」を可能にし、現場にもとづいた研究を可能にするのが健マネであり、それが当研究科の「実学」ではないかと思います。  

 

修士課程2年時に取り組んだことは?

私の研究テーマは薬剤師の生涯教育の問題でした。論文のテーマを決める、心が揺れ動いている時期に先生に相談したところ「自分の周りに起こっている身近なことを追求するように」という言葉を頂いたのです。その言葉はいまでも研究の原点として強く心に残っています。自分の持ち味、今までの経験を活かし、研究においては現場で起こっている問題をありのままに炙り出すことが大切であるということを再認識することができました。本来の薬剤師としての自分の課題を振り返り、研究につなげていくことができたのです。  

 

修士論文をどのように進めましたか?

研究の調査においては今までのネットワークをフルに活用しました。管理薬剤師として勤務していた時に調剤薬局関係者に知り合いが多かったことに加え、調査をはじめるにあたって、ある地域の薬剤師会幹部の方から事前にその地域の薬局の方々にご連絡をしていただき、調査しやすい環境を整えて頂くことができました。 アンケートをお渡しする際には約90箇所の薬局を直接訪問、190人の薬剤師さん一人ひとりに直接手渡しで依頼し、回収にも直接行きました。相手の立場を考えると、ただ郵送やFAXでアンケートに答えて下さいと言われても答える気にならないと思ったからです。その結果、157人の薬剤師さんにご回答いただくことができました。回収したアンケートには文字がぎっしりと書かれており、薬剤師さんの想いがつまっていました。そのアンケートを見てこれは大切にしなければならない、私の研究の宝物だと心から感謝しました。  

 

博士課程に進学した理由は?

修士での研究で問題点が見えてきたということもあり、よりよい医薬分業のために薬剤師はどう自分の職能を高めるべきか、さらに追求してみたいと思うようになったのです。そのために、まずは医薬分業が進んでいる地域における薬剤師の方々の活躍を知りたいと思っています。現在はその地域の歴史などを調べています。 このような時にタイムリーに慶應義塾大学が共立薬科大学と合併したのは驚きでしたが、私としてはコラボができたらと思っています。 健康マネジメント研究科は、人とのつながりを広める最高の場でした。現役生の方々には、講義に加えて、先生方や同級生との交流やイベントも大切にしていただきたいと思います。  

 

PROFILE 川島淳子さん(医療マネジメント専修1期生:07年3月修了)

北里大学薬学部薬学科卒業。同年、日本ロシュ(株)研究所入社 毒性学病理学部に所属し前臨床試験の業務に携わる。結婚・出産を機に(株)メディカルサプライ アポテイク調剤薬局に管理薬剤師として勤務。薬学生の実務実習指導等も経験した中で自分自身もスキルアップしなければならないと思い2005年に大学院健康マネジメント研究科に入学。修了後、同研究科博士課程に入学。主婦、母親、調剤薬局勤務薬剤師、学生として多様に活動し、充実した生活を送っている。  

取材: 寺岡貴子(看護学専修3期生) 吉岡かおり(看護学専修2期生) 田川洋平(医療マネジメント専修1期生)

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